Unit 9 Yellow flags:痛みの病態による分類

疼痛・症状の原因や改善に影響を与える心理社会的要因を、”Yellow flags”といいます。

具体的には、うつ、不安、破局的思考、恐怖回避思考、自己効力感(の低下)などがあります。

1977年にGeorge Engel が生物心理社会モデルを発表して以降、患者の捉え方が、生物医学モデル(biomedical model)から生物心理社会モデル(biopsychosocial model)へと移行してきました。

ICF でもそうですが、身体機能・構造だけで考えるのではなく、個人因子・環境因子も含めて、患者を人として捉えることが求められています。

ちなみに、心理社会面のことを英語で Psychosocial と言い、心理面のことを Psychological といいます。Yellow flags を心理社会面として述べているのか、心理面として述べているのか、英語文献(特に古い文献)を読む時は注意が必要です。

さて、心理社会的要因のことを考える上で、まず、痛みの病態による分類を理解する必要があります。

痛みの病態による分類

疼痛は病態によって、①侵害受容性疼痛 nociceptive pain、②神経障害性疼痛 neuropathic pain、③心因性疼痛(機能性疼痛)に分類されます(1,2)。

痛みの原因による分類と称される場合(1)もあれば、痛みの病態(発症機序)による分類と表される場合もあります。ここでは痛みの病態による分類としています(2)。

これらの疼痛は単一のものもあれば、混ざっている場合もあります。

侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛の性質が合わさったものを混合性疼痛と称するそうです(3, 4)。

西上(2018)は、慢性腰痛の原因は1つではなく、複雑に組み合わさって治療をより難しくさせると述べています。

痛みの病態による分類の理解は、セラピストのマネジメントだけでなく、医師とのコミュニケーション、医師と連携した患者の投薬コントロールにも、とても役立つ知識です。

なぜなら、整形外科領域での薬物療法は、疼痛の病態や程度、また、時期(急性期・慢性期)に応じて薬が選択されるからです(2,3,4)。

私も薬について理解するようになって、コミュニケーションがより良好になりました。医師は薬のエキスパートなので、喜んで話をしてくれます。

どのタイミングで投薬の種類を変えるのか、という視点でみるととても勉強になります。

では、①侵害受容性疼痛 nociceptive pain、②神経障害性疼痛 neuropathic pain、③心因性疼痛(機能性疼痛)について、少し掘り下げてみましょう。

 

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侵害受容性疼痛 nociceptive pain 

組織損傷によって末梢の侵害受容が刺激されて生じる疼痛を、侵害受容性疼痛といいます。

末梢組織に侵害刺激(熱刺激・冷刺激・機械刺激・化学刺激)が加わり、一次侵害受容ニューロン(線維とC線維)の末端の自由神経終末が刺激され、脊髄、視床を介して、大脳の体性感覚野や大脳辺縁系に投射されます。

侵害受容性疼痛の薬物療法としては、NSAIDs、アセトアフェノミン、オピオイドなどがあります。

NSAIDs(nonsteroidal antiinflammatory drugs:非ステロイド性抗炎症薬)は、本邦の腰痛診療ガイドラインでは、急性・慢性腰痛の薬物療法の第一選択となっています。

  • 作用
    – 抗炎症、鎮痛、解熱作用
  • NSAIDsの種類(商品名)
    – アスピリン(アスピリン、バファリン)、メフェナム酸(ポンタール)、ロキソプロフェン(ロキソニン)、ジクロフェナクNa(ボルタレン)、モーラステープ など

ちなみに、アメリカの内科医師学会の腰痛ガイドライン(2017)では、投薬は第一選択としていません。ただし、日本の医療機関でこの考えが受け入られるのは少し時間がかかるのではないでしょうか。

薬を求めて来院している患者の場合、処方されないとクレームになることがありますからね・・・。

神経障害性疼痛 neuropathic pain

体性感覚神経系の病変や疾患によって引き起こされる疼痛を、神経障害性疼痛といいます。

脳・脊髄・末梢神経において、変性・断裂・損傷・虚血によって生じる疼痛です。

中性性では脳梗塞や脊髄損傷などがあり、末梢性は炎症や損傷などがあります。

腰部においては、腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニアなどがあります。腰痛と下肢の疼痛がある場合、関連痛か神経由来の疼痛なのか判断する必要があります。

神経障害性疼痛の薬物療法としては、第一選択としてプレガバリン(商品名:リリカ)です。

2010年に末梢性神経障害性疼痛の適応薬として承認され、2013年に中枢性神経障害性疼痛の適応薬として承認されました。

少量から開始し、1週間ごとに、治療効果と副作用の両面を評価することが重要です(7)。リリカが処方された場合は、1週間ごとのフォローアップがされていると思います。

副作用の訴えがある場合は、医師との情報共有が大切になります。

患者によっては自己判断でやめてしまう場合がありますが、急激な投与中止は、不眠・悪心・頭痛・下痢・不安および多汗症などの症状が現れることがあるため,投与を中止する場合には、少なくとも 1 週間以上かけて徐々に減量するといいとされています(7)

心因性疼痛

器質的・機能的病変がなく心因的要因が大きく影響する疼痛を、心因性疼痛といます。

心因性疼痛の場合は、治療に非常に難渋しますし、コミュニケーション、発する言葉もとても慎重になります。

心因性疼痛(1,2, 6)、非身体器質的疼痛(2)、機能性疼痛(5)と呼称は変化します。

西上・壬生(2014)は、心因性疼痛を「説明しうる損傷や炎症などの病変がないにもかかわらず感じる・訴える痛み、あるいは損傷や炎症などの病変が認められていても訴える痛みを十分に説明することができない痛み」と定義しています。

心理的要因と痛みの悪循環については、下行性疼痛抑制経路で説明されています(8,9)。

痛覚の伝達経路は末梢から中枢へ向かう上行路だけでなく、下行性に痛みを抑制または促進する下行路があります(10)

持続的な不安、不眠、破局的思考、恐怖は、大脳辺縁系(前帯状回:認知、扁桃体:情動など)の活動パターンや機能的結合を変容させます。

大脳辺縁系は中脳中心灰白質(PAG: periaqueductal gray)の活動を修飾しています。

PAGからは2つの経路、延髄にある大縫線核、橋の青班核をがあります(下行性疼痛抑制経路)。

  • 延髄にある大縫線核 – セロトニン系(5-HT) – 疼痛抑制&促進
  • 橋の青班核 -ノルエピネフリン系(NE) – 疼痛抑制

下行性疼痛経路は、脳に伝達される疼痛信号を脊髄後角において減弱させることで疼痛伝達を抑制する役割を担っています。

下行性疼痛抑制系を賦活させることを目的に、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI:serotonin and norepinephrine reuptake inhibitor)、商品名はサインバルタが用いられるようになってきました。

本邦では、慢性腰痛の薬物療法として、第2選択薬となっています(グレードB)(11)。

  • 日本での承認(12)
    2010 年:うつ病、うつ状態
    2012 年:糖尿病性神経障害に伴う疼痛
    2015 年:線維筋痛症に伴う疼痛
    2016 年 :慢性腰痛に伴う疼痛
    2017 年:変形性関節症に伴う疼痛

また、痛みの悪循環については、交感神経系の興奮も示唆されています(9)。疼痛により交感神経系が興奮すると、血管収縮、血流減少、虚血、局所組織損傷が生じて、発痛物質が放出されて疼痛が増悪する可能性があります。

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まとめ  

痛みの病態による分類には、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、心因性疼痛(機能性疼痛)があり、侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛の性質が合わさったものを混合性疼痛と呼びます。

慢性腰痛の場合、疼痛の原因は1つではなく、複雑に組み合わさって治療をより難しくさせます。

痛みの病態による分類、また、時期(急性期・慢性期)に応じて薬は選択されます。

選択される薬の理解は、医師とのコミュニケーションを円滑にし、医師と連携した患者の投薬コントロールをできるようになると思います。

References 

  1. 松原・他:ペインリハビリテーション, 三輪書店, 2011
  2. 住谷・他:痛みの発生メカニズムに基づいた薬物選択, 2017
  3. 濱口:痛みの薬物療法「神経障害性疼痛 薬物療法ガイドライン 改訂第2版」に基づいた治療薬の選択, 2018
  4. 神経障害性疼痛 薬物療法ガイドライン 改訂第2版, 2016
  5. 西上:腰痛が生じるメカニズム, 非特異的腰痛のリハビリテーション,  羊土社, 2018
  6. 西上・壬生:痛みに対する評価とリハビリテーション方略 -臨床でのスタンダートを目指して-, 保健医療学雑誌, 2014
  7. 渡辺:プレガバリン(リリカ)、トラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン配合錠(トラムセット)を中心として, 皮膚臨床, 2016
  8. 長坂・他:慢性痛における下行性疼痛抑制経路の理解, 整形外科, 2017
  9. 苅安・他:慢性疼痛の病態の理解, 整形外科, 2016

  10. 西上・柴田:疼痛および鎮痛の神経メカニズム, The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine, 2016
  11. 腰痛診療ガイドライン, 2012

  12. 鉄永・他:セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬の使用方法, 2018

おすすめの書籍

2018年出版。ピーター・オー・サリバンの慢性腰痛の分類を軸に紹介しています。心理社会的要因とは、心理社会的要因の評価(カットオフ値も掲載)、心理社会的要因が多い腰痛のマネジーメント、また、認知行動療法について説明されています。当研究所代表も分担執筆させて頂いています。

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