コラム:ホローイングとブレーシング

腰部患者のモーターコントロール障害

脊椎徒手療法研究所を設立して4年目にして「脊椎モーターコントロールの評価と治療」を開催しました。

頸部のモーターコントロールについては、早くにまとまっていましたが、腰部のモーターコントールについては、なかなか答えが見出せずにいました。

現時点でも結論はでていないのですが、腰部のモーターコントロールについて考えたいと思います。

腰痛患者のモーターコントロール(運動制御)障害には、①筋活動の問題、②静的制御・動的制御の問題、③姿勢・動作の問題があります。

① 筋活動の問題

筋活動の問題には、深部筋の活動が低下し表層筋が過活動する、また、共同筋の異常パターンなどがあります。これは腰部だけでなく、頸部にも言えることです。頸半極筋の活動が低下し、表層の頭板状筋の活動が増加します。

② 静的制御・動的制御の問題

静的制御・動的制御の問題としては、腰椎中間位の制御ができない、動作時の腰椎中間位の制御ができない、などがあります。

③ 姿勢・動作の問題

姿勢・動作の問題として、疼痛回避姿勢・動作の残存、不適切な動作パターン、誤った認識、腰部に負担のかかる作業習慣・環境などがあります。

Hodges は、運動制御の介入では、脊椎に対する負荷を最適にするために、筋活動、姿勢・アライメント、動作の戦略を修正することが目的となると述べています(Paul W Hodges et al. 渡邊 監訳;スパイナル・コントロール 2015)

アブドミナルホローイング VS アブドミナルブレーシング

腰痛患者のモーターコントロール障害として、腹横筋の減弱、遅延、多裂筋の減弱、遅延、萎縮、脂肪浸潤、表層筋の過活動があります

そのため、深部筋の活動低下、表層筋の過活動が起きている場合、表層筋の活動を抑えた状態で深部筋の活動を上げるための運動学習が必要となります。

腹横筋・多裂筋の筋活動を改善するために、これらの筋の単独収縮、また、同時収縮が行われています。広く知れ渡っているのは、腹横筋を収縮させる ”ドローイン” です。

「脊椎・肋骨・骨盤を動かさずに、下腹部(臍)を背中に向かって引き込みましょう」です。腹横筋の収縮時は内腹斜筋が過活動しないように気をつける必要があります。

深部筋の収縮を練習しよう、動作開始前には必ずドローインしよう、というのが流行りました。ちなみに、ドローインはアブドミナルホローイングという名前で、研究報告されることが多くなっています。

しかし、違う結果の研究、違う意見がでてきました。

Gubler(2010)は、慢性腰痛患に上肢運動に先行して起こる腹横筋の活動の遅延はなかったと報告しました。

また、Stuart M. Mcgill は、「遅延は多くの筋に起こる可能性がある」「筋活動の遅延よりも筋活動や筋出力の方が重要だ」「多裂筋を分離させて活動させられる人は少ない」「腹部を引き込まずに腹部を硬くするほうが脊椎の安定性を高める脊椎は安定化する」と言って、アブドミナルブレーシングを提唱しました。

腹壁の3層の筋(腹横筋・内腹斜筋・外腹斜筋)を引きこまずに活性化させるアブドミナルブレーシングの方が有効だ、ということです。腹横筋の収縮は必要ないと言っているのではなく、腹横筋だけでなく内腹斜筋・外腹斜筋の筋活動が大事ですよ、ということです。

 

 

 

 

 

 

現在、腰部の安定性を高める方法として、アブドミナルホローイング(ドローイン)とアブドミナルブレーシングがあります。

この2つの方法を比較・検討された研究がいくつか報告されています。

例えば、Suehiro(2014)は、健常者に対して、Pron hip extension を実施したときのアブドミナルホローイングとブレーシングの効果を比較・検討した結果、ホローイング・ブレーシングともに何もしないよりも、腰椎伸展・骨盤前傾角度は著しく低かった、また、ホローイングの方が外腹斜筋の活動が低かった、と報告しています。

他にも、Kim(2018)が、「Effects of abdominal hollowing and abdominal bracing during side-lying hip abduction on the lateral rotation and muscle activity of the pelvis」という研究を発表しています。

引きこむのか、押しだすのか、結論はでない

 

 

 

 

 

 

アブドミナルホローイング、アブドミナルブレーシング、どちらがいいのでしょうか。

臨床ではさまざまな混乱が生じます。

メソッドAはホローイングがベースにしているけど、メソッドBはブレーシングを勧めているなぁ・・・

自分はホローイング(ブレーシング)指導しているのに、横ではブレーシング(ホローイング)指導しているなぁ・・・

ホローイング・ブレーシングともに背臥位・側臥位などの肢位でまず行われますが、安定して行えるようになったら、ホローイング・ブレーシングをした状態での上肢・下肢の簡単な動作を行っていくことは共通しています。そして、腰椎アライメント保持した状態での静的 ex を行っていきます。

ホローイングをした状態で、上肢・下肢の運動をしたら、内腹斜筋・外腹斜筋は活動します。つまり、腹横筋だけの筋活動ではない、ということです。腹横筋と多裂筋の収縮だけでは、さまざまな機能的動作には対応できません。動作の難易度が上がるにつれ、内腹斜筋・外腹斜筋また背部の筋も含めた腰部の安定性、腹腔内圧の上昇が必要になってきます。

気をつけなければいけないのは、腰痛患者はとりあえず、最初にホローイング、ブレーシングをする、ではありません。評価があってこそのホローイング、ブレーシングです。

不適切な動作パターンがある場合、例えば、立ち上がり時の腰椎伸展を制御できない結果、腰椎過伸展による腰痛が生じているのであれば、先に動作パターンを修正した方が結果がいいことがあります。

また、毎回、動作時にホローイング、ブレーシングをするのか、という疑問点もあります。意識してできるのを、無意識にできるようにしなくてはいけません。

私は、機能的動作、全身動作、また、動作学習になったら、深部筋活動ではなく、腰椎中間位を保持てきているか、動作の安定性、動作の質に目を向けるようにしています。運動制御・動作に問題があればホローイングまたはブレーシングを行い問題解決するか判断しています。

今後の展望としては、「腰痛患者に対してホローイングVSブレーシングではなく、ホローイングとブレーシングの両方を行うことはどうなのか」「腰痛患者自身がやりやすい方法を行うのはどうなのか」「下腹部を引き込むホローイングをして強度を高めて腹斜筋を活動させる方法はどうなのか」などでしょうか。

徒手療法にもさまざまなメソッドがありますが、腰部の安定性を高める方法もさまざまですね。

 

Paul Hogges の著書です。脊椎のモーターコントロールについて、とても詳しく書いてあります。ドローインに否定的な Stuart Mucgill も執筆者に名前を連ねています。否定的な意見も取り入れながら、モーターコントロールについてまとめてあります。

Stuart Mucgill の著書です。ドローインではなく、ブレーシングの方がいい理由を、研究を基に展開しています。シットアップ(チェストリフト)も上げすぎることによる椎間板のリスクについても書いてあります。