クリニカルリーズニング

クリニカルリーズニングとは

クリニカルリーズニング(臨床推論)とは、情報を収集して仮説を形成し決断に至るまでの思考過程のことをいいます。

臨床で◯◯という介入をしようとした時に、◯◯をしようと決断にいたるまでの頭の中の話です。

頭の中では、さまざまな情報を収集して仮説がたてられ、肯定・否定され、決断までいたっています。

クリニカルリーズニングは、医師、医療従事者の中では一般的な考え方として浸透しています。理学療法においては、南オーストラリア大学の Mark Jones がクリニカルリーズンングを発展させた一人と言えると思います。

EdwardsとJones によるクリニカルリーズニングの全体像は、クリニカルリーズニングを理解する上で、とてもわかりやすいです。

左にセラピスト、右に患者がいます。

そして、セラピストと患者の間には、情報収集があります。情報収集には、主観的評価(問診)と客観的評価(身体評価)があります。

セラピスト側のフローチャートを見てみましょう。6つのステップがあります。

① 情報を集め、② 重要なキーワードを抜き出し仮説を立て、③ 主観的評価・客観的評価を経て仮説を確認・修正し、④ 診断・治療方法を決定し、⑤ 治療を行い、⑥ 再評価します。

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事前情報の認知・解釈

セラピスト側のフローチャートの初めに「情報を認知・解釈」とあります。

介入方法を決定するために、患者の困っていること、機能障害因子(関節の問題、運動制御の問題など)を把握する必要があります。

介入方法の決定には、情報が必要となってきます。

情報には、患者・クライアントに会う前に得られる情報(事前情報)と、実際に会って主観的評価・客観的評価から得られる情報があります。

事前情報には、医師からの指示書、他院からの申し送り書、受付で書いた問診票、などがあります。接骨院・治療院・整形外科クリニックなどでは、これらの事前情報がメインになるかと思いますが、他職種からの情報、家族からの情報も重要な情報です。

事前情報から、Cue(重要なキーワード)を抜き出し、仮説をたてていきます。たてられた仮説は各カテゴリー(現病歴、既往歴、社会情報など)に分類されていきます。

では、男性Aさんについて考えてみましょう。

この限定された情報から何が考えられるでしょうか。

Cue としては、
「男性、30歳」「1ヶ月前から」「徐々に」「右腰が痛い」「痛みが変わらない」「腰椎椎間板症」でしょうか。

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

ここで、「急性期」「炎症」「椎間関節」「筋損傷」といった身体機能・構造だけが頭に浮かんだ場合、患者の一面しか考えられていません。

この段階で、環境因子・個人因子が頭に浮かんでくることが大切です。

例えば、「男性、30歳」ということから、仕事はどうなのか、結婚・子供はどうなのか、子育てと腰痛の関係は、といったことが仮説として考えられるようになると、患者を人として考えていく第一歩となります。

とはいうものの、私も新人のころは身体機能・構造ばっかり考えていました。身体機能・構造がわかってないので個人因子・環境因子まで考えられていなかったと思います。難しいですよね。誰もが通る道だと思います。

事前情報を認知、解釈したら、多数の仮説がでてきます。

このとき、知識・経験が少ないと1つ、または、2つの仮説しかでないそうです。まぁ、誰もが通る道ですね。新人の時は1つ、2つしかでなかったですね。

仮説を基に推論をしていきますが、その方法には2つあります。

パターン認識と演繹(えんえき)的仮説推論です。

パターン認識 VS 演繹的仮説推論

パターン認識(帰納的仮説推論)

パターン認識とは、自分の知識・経験に基づいてこの患者は○○だなと仮説をたて介入することです。わかりやすく言うとトップダウンです。はまれば早いですよね。

  • Fast thinking
  • 直感的思考
  • 臨床所見のパターンから仮定的に治療法を実施し、その治療効果を判定する(長谷川 2008)。
  • 膨大な知識・経験に基づいた判断の時は良いかもしれないが、バイアスの傾向があり間違いにつながりやすい

演繹的仮説推論

一方、演繹的(えんえきてき)仮説推論というのは、ボトムアップのことで、評価を重ねて仮説を立証していきます。スピードは遅いですが、確実性は増します。

  • Slow thinking
  • 分析的思考
  • 情報から多面的に仮説を設定し、その仮説を問診・身体検査および治療効果の判定によって検証していく(長谷川 2008)
  • パターン認識を客観視する、また、間違った行動のリスクを減らすために重要

パターン認識と仮説演繹的推論の2つを向上させていく必要があります。分析的思考を持ち、直感的思考を確認していくことが重要です。

私も、初めて経験する疾患・病態、典型的なパターンでない場合は、評価を重ねていきます。

自分が考えた仮説を立証、否定するために、主観的評価(問診)と客観的評価で情報を確認・追加・修正していきます。

新人セラピストの場合、自分の仮説を証明することに集中してしまいますが、否定するための検査をすることが重要です。

どういった情報が必要かというのはセラピスト自身が持つ知識・経験に左右されます。新人セラピストの場合、患者が大事なことを言ったのに、そのままスルーしてしまうことがあります。

これは、その情報の重要性をまだ把握していないために起こるもので、先輩セラピストは情報に気づくよう促す必要があります。

さまざまな仮説を、主観的評価・客観的評価にて肯定、否定、修正して、疑われるいくつかの病態・症候群をランキングします。そして、次のステップ「診断・治療方法の決定」となります。

介入の前に、Bias がないか、自分の好きな理論に導いてないか、最近習ったことに寄せていないか、確認しましょう。

介入方法の決定に対しては、近年、EBPT:Evidence based physical therapy の実践が推奨されています。

 EBPTの実践においては、「質の高い研究論文」「知識・技術・経験」「患者の意向・価値観」また、施設設備、サービス、文化などを統合して、最適な臨床判断を行う必要があります。

日本においては、施設によっては、「医師の指示」を考慮する必要もあるでしょう。

詳細については、日本理学療法士協会のEBPTチュートリアルをご参照ください。

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患者自身の仮説を修正する

多くの患者・クライアントは患者自身の仮説を持っています。

Jones と Edwards の図では、セラピストだけでなく、患者のフローチャートもあります。

また、セラピストと患者を結ぶ矢印は一方向ではなく、双方向になっています。

つまり、クリニカルリーズニングは、セラピストと患者の相互関係、共同作業から成り立っています。

患者側のフローチャートを見てみると、最初のステップに、”患者自身の仮説 patients’s own hypothesis” とあります。

患者・クライアントは自分自身の症状について、自分自身の仮説を持っています。それはテレビ、インターネットからの情報からかもしれませんし、友人からのアドバイス、別の医療スタッフのアドバイスかもしれません。

「テレビで言っていたんだけど、XXXなんだと思う。」

「痛くなったのは、XXXが原因だと思う」

「XXXをやりすぎたからかなぁ」etc.

という感じですね。

患者自身の仮説、認識、考え方が正しい場合もあれば、誤っている場合もあります。

誤っている場合、修正する必要があります。

しかし、初回評価で、患者自身の仮説を全否定する=信頼関係の破綻につながりやすいです。

その仮説が間違っていたとしたら、否定ではなく、セラピストは修正する必要があります。

患者・クライアントの仮説が間違っていた場合、否定するのではなく最初に共感を示すのも1つの方法です。

例えば、「そうですね、その可能性もあるかもしれません。これから確認していきましょう」といった具合です。

初回評価で全否定しているセラピストを見たとき、自分自身も気をつけようと思います。

クリニカルリーズニングに関する英文献を読んでいると、”interacting with the patient” とか、 “collaboration with the patient” というような説明がされています。

クリニカルリーズニングはセラピストのみでできるものではなく、患者との相互関係があってできることなんですよね。

そして、その相互関係を築くにはコミュニケーション能力が不可欠です。

優秀なセラピストとは

クリニカルリーズニングはセラピストに必須の知識・技術です。

経験年数 = expert と考えがちですが、実際には、経験年数があっても expert になれるわけではないとMark Jones は述べています。

また、カナダの理学療法士 Diane Lee は、Clinical expertise とは、知識・技術 + クリニカルリーズニングだと述べています。

クリニカルリーズニングを理解するには、メタ認知、パターン認識、仮説演繹推論、Diagnostic reasoning, Narrative reasoning… など、他にも知っておいた方がいいことはたくさんあります。

また、患者・クライアントのフローチャートの理解も不可欠です。

クリニカルリーズニングは一朝一夕にはいかないですが、日々精進して、クリニカルリーズニング力を上げていきたいですね。

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